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主にコンサートの感想等を書き連ねた備忘録

東京二期会「運命の力」(2026年9月5日)

東京二期会「運命の力」


東京二期会37年振りの「運命の力」だ。書棚を探したら1989年の公演プログラムが出てきた。それによるとその楽日は崩御された昭和天皇のご大喪当日にあたって公演中止を決定したと記されている。その時の指揮はその5年前に藤原の「蝶々夫人」でオペラデビューを果したばかりの新進気鋭の井上道義であった。この演目は日本では案外上演機会に恵まれないよう。私自身もこの二期会公演に始まり多分今回が生涯4度目だと思う。中ではカゾッラ、ジャコミー二、ブルゾンを揃えた1992年の藤原歌劇団公演が印象に残っている。さて今回はデヴィット・パウントニーの演出によるボン歌劇場とウエールズ・ナショナル・オペラとの提携プロダクションである。指揮はムーティの下で研鑽を積み最近はオペラ指揮者としての活躍も目覚ましい八嶋恵利奈だ。パウントニーの舞台は随所に映像を挟んでドラマの思想的な骨格を明確に意識させ、あとは抽象舞台上に展開する歌唱と演技でドラマを進めてゆくという手法。冒頭に「Peace」、3幕前に「War」という言葉が明示されたのには驚いたが、兵士役の合唱の滑稽な動きを見るにつけそこに強烈な絶対主義批判を感じずにはいられなかった。それがこのドラマの主軸となる「怨念」と結びついた時こそ戦争の世紀の始まりだというメッセージはまさにいまこの時に相応しい警鐘だろう。プラチオジッラと侍女クッラと黙役の”運命の化身”の三役を演じた加藤のぞみは、美しいフォルムを持ったスタイリッシュな美声と存在感で争いを煽動するその役回りを的確に歌い上げ全体を引き締めた。ドン・アルヴィーゾ役の樋口達哉と宿敵ドン・カルロ役の今井俊輔は両者とも最初は不安定であったが、幕を追うごとに調子を上げとりわけ終幕では声も充実し引き締まった二重唱を聞かせた。レオノーラ役の大村博美も最初はいささか芯の定まらない歌唱だったが、大詰めの「神よ平和を与え給え」では、死なねば平穏がおとずれない怨念に翻弄された人生の哀れを見事に絶唱に託した。そんな陰惨な物語の中のおどけ役メリトーネを演じた堺裕馬の存在感は光っていた。そして二期会・藤原・新国による混声合唱の引き締まった歌声は実に気持ちよかった。注目の八嶋のピットは繊細にして活力に満ちていて申し分のないもの。しかし冷静な目は光っていてやたら騒ぎ立てず、しかし締める所は締め舞台を決して邪魔せず盛り上げる職人的手腕がすでに備わっていた。今後の活躍が楽しみだ。