
1997年に創立されたこのアジア・フィルは、基本的に世界各地のオーケストラで活躍するアジア人プレーヤを集めてチョン・ミョンフンの下に結成される”夢のフェスティバル・オーケストラ”である。この夏は仁川・東京・北京で公演を行っている。編成は100人規模であるがそのうち約半数をマエストロ・チョンと馴染みの深いソウル・フィルと東京フィルのメンバーが占める。また半数以上が所属のオケで首席や副首席を務める奏者という豪華な顔ぶれである。ちなみにコンサートマスターはシカゴ響のコンマスであるロバート・チェンである。さて当日のプログラムはベートーヴェンの交響曲第7番イ長調とブラームス交響曲第1番ハ短調という超重量級プログラムであったが、チョンの自在なドライブにかかると鈍重さなどは一切感じられず、細部の細やかさと草書体のようなしなやかさと青白い炎のような情熱が品格を備えて三位一体となった極めて鮮やかな演奏であった。その音や表現からはこの二人の作曲家の母国であるドイツのローカリティーのようなものは一切聞き取れないのだが、それよりもっと奥にある音楽の普遍的な価値・魅力を明かにして勝負した演奏とでも言えようか。こうした方向性は日頃の東京フィルやN響への客演時と変わらないのだが、前者の場合には技術的な限界があり、後者の場合には柔軟性の限界があり、やはり今回はチョンの下に集ったこのヴィルティオーゾ・オーケストラならではの徹底した世界であったと言えよう。当世の「アジアの力」を耳をもって確認した晩であった。
